だからキスして。
あたしは彼の為に、彼の求めている彼女に近づく為にイメージ作りを始めた。

「…彼女の名前は?」

「井田沙也佳…僕は'沙也佳'と呼んでいたんだ」

「彼女は貴方の事を何て呼んでいたの?」

「'お兄ちゃん'と────僕は…沙也佳の兄なんだ…」

「兄妹…」

「この想いは、両親にもバレてしまったよ…」

切ない想いの障害は実の兄妹だった事…あたしは改めて、この恋の罪深さを知る。

赦されない恋──
彼の中を支配していた絡まる棘。

「彼女の事を話して。どんな人だったのか、貴方にとっての大切な出来事とか」

あたしは彼の心臓にくい込む棘を少しずつ抜いていこうとした。

「沙也佳は色白で、可愛らしい女の子だった。大人しくて…僕に優しくて。

彼女が高校生になった頃、付き合ってた彼氏にフラれた事があって…部屋で泣いていたんだ。

僕は兄としてなぐさめてたんだけど…その頃から、この恋は育っていったんだと思う。

静かに…確実に恋は僕の中で大きくなっていった。

何歳になっても変わらず彼女は誕生日プレゼントやバレンタインを僕にもくれていたし

大人になってますます綺麗になる沙也佳に、僕は夢中になっていった…」
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