だからキスして。
「よかったー!あたし一人でどうしようかと思ってたんですよ!」

小松さんはパッと笑顔になった。

「部長がいるじゃん」

「ええ―…?勘弁してくださいよぉ…」

最近まで学生だった子が、50後半のオジサンに仕事を手伝ってもらうのは辛いだろうな。

まぁオレだって32歳じゃ、もうオジサンだよな?

…なんて言うのもオジサンっぽい気がして言わなかったが。

オレは小松さんの机の隣に椅子を持って行き、彼女が一人格闘していた伝票を見た。

「どれが合わないんだって?」

「ココと、この数字なんですけど…こうして、こうなって、ココとココを足して引けば、この数字になりますよね?」

「うんうん」

「でも…違うんですよねー!何が悪いんですか?どこかが間違ってます?」

「そうだな、えーと…」

一生懸命、彼女とオレは数枚の伝票とにらめっこしていた。

伝票以前に、どっかが間違ってるんじゃないかって話しになった頃、残っていた部長が声をかけてきた。

「牧野くん、まだかかりそう?」

「そうですね…あと30分以内で何とかします」

「そう。じゃ喫煙室にいるから終わったら声かけてくれないか?」

「すいません。わかりました」
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