だからキスして。
『うん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ…こんな事になってゴメンね』

「愛してる…多分、ずっと愛してる…」

『…サヨナラ…』

「サヨナラ…沙也佳」






彼はあたしと唇を重ねた。


───触れ合うだけの優しいキス


彼の中では…彼女との最初で最後のキスで、それは決して叶うはずもなかった口づけ。

あたしも彼女になりきるの。
あたしの中に彼の切ない想いや、愛しい感情や…悔しさが流れ込んできて



  この一瞬だけ
   彼を愛する






それが、あたしの仕事


長く切ない、最後のキスをして
催眠から彼を目覚めさせた。

「…ちゃんと言えた?」

「ありがとう…僕はこれで前に進める気がするよ」

彼は泣きながら笑顔で言った。

来た時とは全然違う…穏やかな顔になっていた。

状況は何一つ変わらないのに、それでも気持ちが変化してる。

「ありがとう。あたしも貴方の心に触れられてよかった…次はいい恋をしてね」

「うん…」




──これで
あたしの一つの仕事は終わった。

カウンセリングに利用する人もいるし、ただ単に誰かとキスしたいって人も多いの。


翌日は70歳のおじいちゃんがお客だった。
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