だからキスして。
一日仕事して、家に帰るとシャワーを浴びて知哉とのデートの支度を始めた。

わかってるんだけど

'もしかしたら…'
時間通りに来るんじゃないかと思って、その時間に間に合うように支度しちゃうの。

七時近くなって、あたしは少し緊張した。


ああー…神様…
一度でいいから、知哉に約束を守らせて。





そんな願いも虚しく、知哉は20分遅れで迎えにきた。

当然、あたしは不機嫌Max。

ほっぺをプゥっと膨らませ、無言で知哉の車に乗り込んだ。

「…里佳さん…怒ってます…?」

「どんな風に見えるのよ?」

「…怒ってるように見えます…」

「じゃあ怒ってるんじゃないの!?」

「ゴメンー!ちょっと用事があって遅れたんだよぉ」

用事って何よ?あたしとの約束より大事な用なら、約束なんかしなきゃいいのに!

あたしが黙っていると知哉も無言になり、そのままひたすら車を走らせた。

…怒ったのかな?

あんまりあたしがしつこく怒ってるから。

でもねー
あたし悪くないもん!

できない約束なんかする知哉が悪いんだもん!


会話のないまま、知哉はあたしの知らない峠道を走っていた。
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