だからキスして。
─10─【100万回】
「ねぇ、アオイ。知ってる?」
突然、恵子がそう聞いてきた。
久しぶりに会った高校の時の友達。
あたしは彼女とランチを食べ、食後のコーヒーを飲みながら話しをしていた。
「知ってるかって…何が?」
「岸田先生って覚えてる?」
「…!って…塾の?」
ドキンとした。
覚えてるってよりは…知りすぎてる。
だけどその理由を恵子は知らない。
よく知ってる人だけど…今現在の事は知らない。
話題を振っておいて、もったいぶる恵子が何を言うのか
あたしはドキドキしながら待った。
「岸田先生の弟さん、火事で死んだんだって」
「嘘!?火事で?!」
予想もしてなかった話しに、あたしは彼の事を心配した。
大丈夫かな…
心配したところで、会ったりはしないんだけど。
「私の妹があの塾に通ってて聞いたんだけどね。だからしばらく先生、休んでたんだって」
「そう…そうなんだ…気の毒だね」
それ以上、あたしは何も言えなかった。
恵子は話題の一つとして取り出した話しだったので、彼女もそれ以上は話さなかった。
他にも話しをたくさんした気がする。
でもずっと…
あたしは岸田先生のことばかり考えていた。