だからキスして。
先生に付き添ってもらって、逃げたい気持ちを抑えながら
あたしは家に戻った。

家からはまだ距離があったのに、すぐに異変に気づいた。


…車が通行できなくて止められている。

家の窓という窓から、みんなが顔を出して同じ方向を見ている。

人々は、みんな同じ方向に向かって歩いていた。



───燃えている
あたしの家を見る為に



震えている足。
歩いている感覚なんてわからない。

心臓だけが激しく活動していて…隣で先生が支えてくれて

あたしは家の前までやって来た。


炎…炎…炎…

たくさんの人。たくさんの紅い消防車。

怒鳴り声───


「早く消してよ!!私の家が燃えちゃうわ!!何の為に税金払ってんのよ!!バカっ能無しっ」

…ママ…

必死で消火活動をしている人達に対して、ママがスゴい形相で怒鳴っていた。

よく見ると、服なんか乱れたまま。
火事に気づいて慌てて出てきたってよりは…

やっぱり男とHの最中でしたって感じの格好。

ママと一緒に居た男の姿は見えなかった。
多分逃げたんだろう。



家に火をつけてしまった罪悪感よりも
あたしがママに感じた失望感の方が大きかった。



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