朽ちる少女
午後5時過ぎ。
物理室の戸締まりをした俺はカバンを取りに教室へと戻る。
左手が痛い。
明日は雨だ。
廊下の窓から外を見ると東の空が低く迫り、日暮れ時よりも黒く染まっている。
いつ、どうやって出来たのか記憶に無いが、左手の甲に大きな傷痕が残っている。その傷痕が、湿気を含んだ空気が流れ込むとズキズキと痛む。
母親に聞いた話によると、何でも岩に挟まれたらしい。岩に挟まれたとか、幼い俺は一体何をしていたのだろうか。と言うか、そんな自分の重大事件を覚えていない自分が嫌になる。
教室に戻ると扉は開いたままで、既に誰の人影も無く静まり返っていた。
「ヤバい。早く帰らないとマジで降りそうだ」
俺は急いでカバンを掴むと、走って教室を後にする。
教室の窓から見た空は数分前よりも更に悪化し、既に頭上に雲が垂れ下がっていた。
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