朽ちる少女

 諦める――――

 その心理には鎮静作用があるのか、壁面に寄り掛かり目を閉じると、徐々に平常心を取り戻してきた。

「ダメだこりゃ」

 口からこぼれた軽い言葉とは裏腹に、様々な事柄が繰り返し脳裏に浮かんでは消える。まるで走馬灯の様だ。

 やり残したこと。
 やりたかったこと。
 言わなければいけなかったこと。
 謝っておかなければならなかったこと。
 大半が後悔。
 指先が小刻みに震える。

 音も聞こえず、身動きすら出来ない暗闇の中、不意に思い出した。

 そうだ。
 俺は暗い所が怖かった。
 夜道を歩く時は、肩をすくめてキョロキョロしていた。
 夜はトイレに独り行けず、自宅の廊下でさえ何度も振り返っていた。

 そうだ。
 悪戯のお仕置きに押し入れに閉じ込められたのも、一番暗闇が嫌いだったから。

 いつからだ?
 いつから、暗闇が怖くなくなったんだ?

 左手の傷痕が、懐かしい声と共にズキリと痛んだ。


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