朽ちる少女

 スッポリと抜け落ちていた記憶。

 小学3年生の時、俺は廃屋の古井戸に落ちた。
 オジサンが言った、捜索活動が行われた。

 巻き戻される場面。

「私の事は忘れてしまうから」

 鮮明に蘇る言葉。
 傷の痛み・・・・・


「アッちゃん、私の事を思い出したんだ」

 防空壕の暗闇に、更に黒く涼む少女の姿。
 思い出した。俺は押し入れで彼女と出会い、暗闇が怖くなくなったんだ。

「押し入れの姫」

 そう呟くと、彼女は恥ずかしそうにクスリと笑う。

「思い出すなんて、ちょと驚いちゃった」

「ずっといたんだ」

「うん、言ったでしょ?
 アッちゃんは私の事を忘れるけど、私はずっとアッちゃんの影にいるって」

「うん」

 失っていた小学3年生の夏に戻る。俺の間の抜けた返事は、まるで子供だ。


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