朽ちる少女

 真っ暗な押し入れ。余りにも怖くて泣き続けていた。

「大丈夫、怖くないよ」

 そんな俺に彼女は、優しく声を掛けてきた。

 突然現れた少女。でも、不思議と恐怖感は無かった。彼女の存在が何であれ、間違いなく救われた。

 押し入れで出会った彼女は、暗い場所ならどこにでも現れる事が出来た。暗闇では、決して孤独にならなかった。怖くなくなった。


 そしてあの日―――
 俺は近所の廃屋へと1人で探検に行き、裏庭にあった古井戸に落ちた。幸運にも空井戸だったが、深さ3メートルの井戸から出る事は出来なかった。

 誰も来ない。
 声は届かない。
 小雨が降り始める。
 震えが止まらない。

 そして、夜が来た。


 「アッちゃん」という聞き慣れた声。

「私が助けを呼んでくるよ。アッちゃんの身代わりになって、誰か呼んでくるから」

「そんな事が出来るの?」

「うん。でも・・・でもね、アッちゃんは私の事を忘れてしまうの」


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