朽ちる少女
―――――俺は探検部の下見の為に防空壕に入り、落盤より閉じ込められたらしい。脱出する為に足掻いたのか、両手の指先は血まみれだった。
「なんかさ、アッちゃんによく似た声で、"助けに来てくれ"って。不思議な事もあるもんだね」
もう1人のアッちゃんが、俺をジッと見詰めながら続ける。
「アッちゃんに似てると言うより、アッちゃんだった」
「何だそれ、意味が分からん」
不思議な事に、俺には落盤により閉じこめられた時の記憶が無い。医者が言うには、ショックによる限定的な記憶喪失らしい。漫画じゃあるまいしと思うが、そうとしか説明がつかない。
「痛っ・・・・・」
よく分からないのは、左手の甲に出来た新しい深い傷だ。落盤とは無関係らしい。
だとすれば、自分で傷を付けたことになる。
一体何の為に?
分からない。
思い出せない。
明日は、雨の夜に交通事故で亡くなった姉の誕生日だ。
双子の姉。
命日には必ず墓参りに行くが、なぜか毎年雨が降る。
多分、明日も雨が降る―――――