坂道
「いこ。」



裕美はケンジの右手をとると、背を向けて校舎から続くくだり坂を下り始めた。

ケンジも慌てて左手で両目を拭うと、引かれるまま歩き始めた。



「これからは、この風景を見ながら一緒に帰れるね。」

裕美はケンジに後ろを見せたまま、見渡す街を見渡しながらそうつぶやいた。



その優しさに、ケンジはその背中を抱きしめたくなった。


「ああ、そうだな。」

ケンジがぶっきらぼうにそう言うと、裕美は振り返ってケンジの左腕にしがみついた。


「やめろよ。」

クラスメイトたちが通る坂道を見回しながら、ケンジは恥ずかしそうにそう抗議した。
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