坂道
見飽きていた街並が、翌日から別世界に見えた。



ケンジの左側にいるだけで、裕美は幸せだった。


ケンジと付き合っていると思うだけで、にやけてしまう。



そして少しずつ、人と話すのも怖くなくなった。



裕美は、出来る限りケンジの傍にいた。



目に映るケンジの一つ一つの動作全てが、裕美にとって素敵に思えた。


二年生になって、初めてケンジが野球部の試合で打席に立った姿は、とてもかっこよかった。


裕美の隣で熱っぽく甲子園の夢を語る姿は、素敵だと思った。


高校時代の思い出にと、一緒に校庭の脇に小さな苗木を植える横顔は優しかった。


そして、三年生になって大学に行こうと必死で勉強する姿も、裕美の心を奪った。



ケンジと一緒にする受験勉強は、幸せな時間だった。


しかし、裕美が頑張ってケンジと勉強すればするほど、確実に別れの時が近づいてきた。


裕美はそれを承知で、半年間ケンジとの残された時間を共にした。


やがて会えなくなるのが分かりながら、残された貴重な時間を一緒にすごしたかった。




でも、本当は離れたくなかった。


別れたくなかった。


ケンジの熱い話を、ずっとすぐ隣で聞いていたかった。



しかし、そんな想いを全て飲み込んで、大好きなケンジの大学受験を応援し続けた。






そして、ケンジと別れた。
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