坂道
裕美はケンジがいなくなって、自分は大変なことをしてしまったのだと思った。


やはり、自分はケンジの傍にいたからこそ、自分でいられることが出来たのだと気がついた。



毎日、苦しんで泣いて、やがて元の弱虫に戻ってしまった。


ケンジに連絡して、会いたい、やり直してほしい、そう言いたい衝動に何度も駆られた。



しかし、もうケンジに新しい彼女がいたら迷惑をかけてしまう。


戸惑わせてしまう。


そして何よりも、一点を見据えて、夢に向かって走っているはずのケンジの邪魔になってしまう。



だから、裕美はひたすら待とうと決めた。



ケンジがいつか自分のところに帰ってきてくれる日を。


いつか自分が、ケンジの負担とならずに、その元に行ける日を。


そして自分がケンジへの想いを忘れてしまえる日を。




しかし、ケンジは戻ってはこなかった。


相変わらず、ケンジの元に行くことなど出来なかった。


そしてもちろん、ケンジのことを忘れることなど出来るはずもなかった。




いつも気がつけば、あの坂道を歩いていた。


仲間たちと一緒に行った浜辺を歩いていた。


ケンジの跡をたどることしか出来なかった。




でも、ついに我慢が出来なかった。


ケンジの顔が見たくなった。


遠くからでも良いから、どうしてもその姿が見たくなった。




こんなに苦しいんなら、もう我慢するのはやめよう。


自分の気持ちに正直になろう。



ケンジには迷惑をかけたくないけど、見るだけでもいい。





東京に行こう。
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