坂道
気がつくと、裕美は旅行バッグに、数日分の着替えをつめ込んでいた。


出発のその日も、朝早くの母の仕事を手伝うと、裕美は急いで家へと向かった。



もうすぐだ、もうすぐだ。


そう思いながら走る裕美の目の前に、家が見えてきた。


思わず顔が緩む。



しかし、そんな裕美の背中に、強烈な衝撃が走った。



裕美は驚いて、後ろを見ようとした。


しかし、見ることはできなかった。



有無を言わさずにその圧倒的な力は裕美を弾き、その小さな体をブロック塀に叩きつけた。




ケンジくん、会いたい。




裕美の頭には、その想いしかなかった。




他には何もなかった。
< 104 / 209 >

この作品をシェア

pagetop