坂道
涙を拭う奈央を、しばらくの間ケンジは見つめていた。



おそらく奈央も、裕美の死を知ってから、自分を責め続けてきたのであろう。


そう思うと、ケンジの胸はつぶれそうになった。



ケンジはふと気がついたように目を見開くと、足元に置かれているリュックサックを手に取り、そのジッパーを開けた。


「なあ、奈央。これを見てくれ。」


ケンジはそう言うと、一冊のノートを奈央の前に差し出した。



奈央は言われるままにそのノートを受け取り、一ページ目を開いた。



「こ、これ…。私が読んでいいの…。」


「いいから、その先を読んでくれないか。」


奈央は、その先の内容を読むことに躊躇した。



その内容は、奈央の心を強く打った。




ケンジを思う気持ち。


仲間に感謝する気持ち。


そんな裕美の暖かい気持ちが、その行間から強く伝わってきた。



「それを読んでも、奈央が止めたからといって、裕美が東京に行くのをやめたと思うかい。」


「ううん。」


奈央は小さく首を振った。



その瞳は最後のページで止まった。



「え…。」


奈央は絶句して目の前のケンジの顔を見た。
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