坂道
自分の想像を超える内容に、奈央の頭の中は真っ白になった。


しかしそこに書かれた文字は、紛れもなく奈央が小さいころから見てきた裕美の字であった。



事態を飲み込むにつれて、収まりかけた奈央の涙が、再び溢れ始めた。


もれそうな泣き声を、必死に口を左手で抑えて我慢する。



「たった一人、この世に留まっている裕美の前で、そんなに自分を責めないほうがいい。」


奈央はケンジの静かな口調に、何度も何度も頷いた。



そして、涙をケンジのハンカチで拭うと、震える声でケンジに言った。



「ねえ…、ケンジ君。書くもの持ってない？私も裕美に書きたいんだ。」


奈央のお願いに、ケンジはリュックサックの中からシャープペンシルを取り出すと、静かに手渡した。




奈央は、それを両手で受け取りながら小さく礼を言うと、再びノートを開いた。
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