坂道
ケンジはそう書くと、静かにノートを閉じてシャープペンシルを置いた。



部屋の南にある窓を開くと、外から一筋の夏の熱い風が吹き込んできた。




あの坂道で別れを告げられてから卒業式までの日々、また東京で一人ぼっちで悲しくなった夜、ケンジはこうして夜空をいつも見上げた。


大好きな裕美と会えなくても、仲間たちとどんなに離れていようとも、同じこの夜空を眺めていると思うとケンジの心は慰められた。



でも、今この夜空のもとには裕美はもういない。


この広い天球は二人をつなげてはくれやしない。



二人をつなげているのは、もうたった一冊のノートだけだ。


きっとこの夜空を眺める仲間たちも、同じ思いでいるであろう。





裕美。


一緒に最期の想い出を作ろう。
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