坂道
思い出します、まだあなたが生きていた幸せだったあの頃を。



あの子がはじめて歩いた時三人でお祝いしましたよね。


小さな部屋で三人肩を寄せ合って、ささやかなご馳走を食べましたよね。



初めてあの子が話をしたときのことを、あなたは覚えていますか?


私は覚えていますよ。



その言葉は「お父さん」でしたよね。


私はちょっと悔しい思いをしたものです。


本当にお父さんが大好きな子でした。



あの頃は本当に幸せだった。


もし叶うなら、貧しいながらも三人で楽しく笑っていたあの頃に戻りたい。



本当に、私は全てを失ってしまいました。



そちらの世界で、あなたはあの子に会いましたか?


あの子に会ったら、何も言わず力強く抱きしめてあげてください。



本当は甘えん坊なあの子は、きっと喜ぶはずです。



私は疲れました。



あなたとあの子がいないこの世界にいても、私の心は晴れることはないでしょう。


だから、今日あなたたちのところへ行くことに決めました。



神様、そしてあなた。



最期にひとつだけお願いを聞いてください。


あの子が…あの子が天に上るとき、寂しい思いだけはさせないようにしてください。




それだけが私の願いです。



それでは、すぐにそちらに向かいます。
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