坂道
その手紙の横には、茶色いビンといくつかの錠剤が転がっていた。



そんな母の真っ白な寝顔を、娘は傍らでじっと見つめていた。


自分のために命を絶った母親を前に、立ち尽くす裕美は実体のない大粒の涙を流していた。



その裕美の目の前で眠る母の思いが、娘に奇跡を起こした。



裕美の両手が光を発した。そのあまりにも突然のことに戸惑う裕美の指に、徐々に感覚が戻り始める。


さらには、足が地面に着き、部屋に吹き込む風を受ける頬にも、血が通い始めるのを実感した。



裕美はわずかに光を発している自分の体を、その両腕で静かに抱きしめた。



そしてその実体を確認すると、その両腕を解き、冷たくなった母のやつれた顔に、そっとその掌を置いた。




そう、母は自分の命と引き換えに、娘にひと時の命を吹き込んだのだ。
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