坂道
やがて香澄は半身を起こすと、お客様の髪を切り間違えた話や、美容院で聞く噂話などを話し始めた。
やはりお客さんと接しているだけあって話は上手で、五人は徐々にその話に引き込まれていった。
それに続くように、最近土門が気になっている女性、尾上は実習時の苦労話などを話し始め、時には全員が笑い、また時には真剣に聞き入った。
そしていつしか、気の合った仲間の話に、時間がたつのを全員が忘れていた。
仲間たちの近況を聞くケンジは、東京の乾いた空気の中で忘れかけていた、久しぶりに味わう穏やかな時間をかみ締めていた。
やがて時間も朝の二時を回ろうかという頃、話は裕美の順番になった。
仲間たちの視線が集まる中、裕美の顔には笑顔が貼りついたまま凍った。
自分には近況などない。
夢を語る未来なども何もない。
しかし裕美は、仲間たちが盛り上がるこの場を壊したくなかった。
みんなの優しい視線を裏切りたくない一心で、心に鞭を打って懸命に口を開いた。
「私、高校時代、みんなに会えて、本当に幸せだった。」
裕美は、自分の中に唯一残る、過去の思い出を話すしかなかった。
やはりお客さんと接しているだけあって話は上手で、五人は徐々にその話に引き込まれていった。
それに続くように、最近土門が気になっている女性、尾上は実習時の苦労話などを話し始め、時には全員が笑い、また時には真剣に聞き入った。
そしていつしか、気の合った仲間の話に、時間がたつのを全員が忘れていた。
仲間たちの近況を聞くケンジは、東京の乾いた空気の中で忘れかけていた、久しぶりに味わう穏やかな時間をかみ締めていた。
やがて時間も朝の二時を回ろうかという頃、話は裕美の順番になった。
仲間たちの視線が集まる中、裕美の顔には笑顔が貼りついたまま凍った。
自分には近況などない。
夢を語る未来なども何もない。
しかし裕美は、仲間たちが盛り上がるこの場を壊したくなかった。
みんなの優しい視線を裏切りたくない一心で、心に鞭を打って懸命に口を開いた。
「私、高校時代、みんなに会えて、本当に幸せだった。」
裕美は、自分の中に唯一残る、過去の思い出を話すしかなかった。