坂道
やがて夜中の三時を超えると、さすがに全員が睡魔に襲われ始めた。



そこで、女性三人は別棟に移った。


そして部屋の中に入ると、すぐに簡易ベッドを倒して、それぞれ横になった。



するとただ一人、少し多めにビールを飲んでいた香澄は、あっという間に深い眠りに落ちていった。



「奈央、起きてる？」


裕美は隣のベッドに横になっている奈央に話しかけた。



「うん。起きてるよ、どうしたの。」


奈央はそう言って、裕美のほうを見た。



「ケンジくんのことをよろしくね。」


「え。どういうこと…。」


奈央は、心の奥底を見透かされているような、そんな気持ちになった。



「奈央。自分の気持ちには、素直になっていいんだよ。」


「…。」


奈央は、裕美のその言葉に、何も答えられない。




「お願い。ケンジくんのことをよろしくね。奈央なら私、安心して任せられるから。」


「そんな…。」


奈央は、裕美の切ないほどに深いケンジへの愛を知り、今にも心がちぎれて四散しそうになった。
< 170 / 209 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop