坂道
「いいの。私、奈央にもケンジくんにも、幸せになって欲しいんだ。」


その悲痛なお願いに、奈央は言葉に詰まった。



確かに奈央は、高校時代からケンジのことが好きだった。


その優しさに、大きく惹かれていた。



しかしそれ以上に、ケンジと裕美が幸せそうにしている姿が大好きだった。


心の奥底から、二人のことを応援していた。



苦しみにのたうつ奈央は、裕美に背中を向けてしまった。


結論など出せようもない奈央には、隣のベッドで自分を見つめる裕美を直視できるはずなどなかった。



そんな奈央の後姿を見て、裕美は心の中でもう一度小さくつぶやいた。






本当によろしくね。
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