坂道
静かに寝息を立てる香澄と奈央の間に敷いた布団に包まりながら、裕美はひたすらにじっと耐えていた。



恐怖に打ち震える裕美には、左右の親友たちと違い、いつまで待っても睡魔など訪れなかった。


その一点が、裕美に厳しい現実を突きつけていたのだ。




この楽しい時間が過ぎ去ったとき、自分には永遠の眠りが訪れる。


その前のこの眠りのない世界は、逆にその深い眠りを現実的なものとして感じさせる。



裕美は震える下唇をかんで、懸命にその迫り来る眠りの恐怖に堪えた。


母が命を賭して与えてくれたこの時間を、親友たちと一緒にいることで大切に使いたい。


だからみんなの楽しい雰囲気を、壊したくはない。




しかし、楽しく過ごせば過ごすほど、それを失うのが怖くなる。




みんなに笑顔でお別れを言いたい。


この世に未練が残らぬよう、精一杯その友情を感じていたい。


そして、体一杯にケンジの深い愛情を感じていたい。



しかし、そんな想いで裕美が精一杯振舞えば振舞うほど、苦悩は増すばかりだった。



誰にでもやってくる迫り来る死の恐怖に、人間はどうして耐えられるのであろう。



それはまだ死が現実のものとして、目の前に現れていないから?


死から必死に目をそむけているから?



裕美は布団の中で、何度も何度も自問した。



裕美はすぐそこまで来ている永遠の眠りの恐怖に脅えながら、体を丸くして暗い夜を過ごした。
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