坂道
そして、夜が明けた。



窓からは朝の光が、明るく差し込んでいた。


外では鳥が元気よく歌声を上げ、芝生の隅の草むらでは虫がにぎやかに合奏をしている。



そのような、生命の息吹に聴覚を刺激されながら、裕美は親友たちを起こさぬように床を出た。



裕美がバンガローの木の扉を開けると、一斉に陽光が頭上にふりそそいだ。


裕美は、思わずその暖かい光から逃げるように体を丸め、両腕で頭を隠した。



そして、恐る恐るその腕を解くと、その朝の日の光をゆっくりと全身に浴びてみた。



降り注ぐ太陽光は、暖かくそして優しく裕美の体を包んだ。


裕美はほっとした。



もうこの世にいない自分の体が、輝く朝の光にあたって消えてしまうのではないか、心底不安であった。



少なくても今、自分はこの世に存在していることを確認し、ほっと胸をなでおろす。



「裕美、早いな。」


いつものようにTシャツにジーンズ姿のケンジが、後ろから声をかけた。



裕美は突然のことに驚いて後ろを向いた。



「ケンジくん。驚かせないでよ。」


「あ、ごめん。」


ケンジはそう言って頭をかくと、裕美の横にたって海を眺めた。



朝日を受けた海面は、きらきらと輝いて、あまりにも綺麗だった。


それを覆うように、空には雲ひとつない、一面の青空が広がっていた。




「なあ、裕美。」


「何?ケンジくん。」


裕美は精一杯の笑顔で、ケンジの顔を見た。



「俺は、裕美が後二日でいなくなるなんて、信じられないんだ。実感がわくものがひとつもないし。」


「…うん。」



ケンジの言葉に、裕美の心は残酷に切り裂かれた。
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