坂道
裕美が熱いアスファルトに足をつくのを確認すると、三列目に座っていた香澄が、突然扉を閉めた。



その音に、ケンジは驚いたように振り向いた。


「おい…、どうしたんだよ。これからみんなで、駅前で遊ぶんじゃなかったのか?」


ケンジの戸惑い交じりの抗議に、助手席の窓を開けて尾上が答えた。



「最後の日は二人で過ごすのがいい。高校時代、一緒に行けなかったところがたくさんあるだろう。」


そう言う尾上の後ろの後部座席の窓が開くと、香澄が顔を出した。



「そうだよ、裕美。行ったことない場所、一杯あるでしょ。」


それでもまだ何かを言おうとするケンジを、裕美は左手で制した。



「ありがとう。」


それまで黙っていた裕美が、うれしそうに、小さくただ一言そう言った。



その声を聞いた土門は小さく頷くと、エンジンのキーを回した。



「じゃあねえ。幸せな一日をすごして。」


走り去る土門の車から、奈央がそう叫んだ。



その車の後姿を、裕美とケンジは大きく手を振って見送った。




「全く、いつも別れ際に手間かけやがる。」


そう憎まれ口を叩く土門の呟きに、三人は微笑みながら頷いた。
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