坂道
マウンドの上は、裕美の想像していた以上に孤独であった。



そこに立って見ると、目の前のホームプレートまでも、そして左に見える一塁ベースまでも、かなり遠く感じた。


こんな孤独感の中、ケンジは夏の太陽に照らされ、懸命に相手チームの打者と対戦していたのだ。



「どうだー!マウンドに立った気分は!」


裕美は、耳に飛び込んできた声に我に帰ると、スタンドの上にいるその主を仰ぎ見た。


優しく微笑みながらそう叫ぶその姿は、裕美の目にはっきりと確認できる。



それを見て、裕美はうれしかった。



自分の姿も、きっと孤独に戦っていたケンジの目に、はっきり見えていたであろう。


自分の精一杯あげた声援も、ケンジの耳に届いていたであろう。



裕美は高揚して、大きく息を吸った。



「最高よー!」


裕美はそう言うと、その右手をスタンドの上に立つ大好きな人に向かって、力いっぱい振った。
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