坂道
線香花火が、ポトリと落ちた。



ケンジは何度か何かをいいかけて、口をつぐんだ。


その様子を見て、穏やかな口調で、裕美がたずねた。

「ケンジくん。どうしたの?」

それはどこまでも、優しい口調であった。


そのじっと見つめる大きな瞳を見て、ケンジは言うべきか迷った。
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