坂道
「そう言えば。」


「何?」


スタンドに戻ってきた裕美は、隣で弁当と箸を持つケンジに声をかけた。



その声に、エビフライに食らいつこうとしてやめたケンジの姿を見て、裕美は噴出した。


「何だよ、自分から声をかけたくせに。」


「ごめん。」


裕美はそう謝りながら両手を合わせた。



ケンジはふう、と息を吐くと問いかけた。



「で、どうした?」


「あのさ、二人で植えたあの木、どうなったかな。」


「あ…。」


ケンジは裕美に言われて思い出した。



付き合って丁度一年がたったあの日、学校の裏山から掘り起こしてきた苗木を、記念日と称して二人で校舎の裏に植えたことがある。



「よし、行ってみよう。」


そう言ってケンジは立ち上がった。



「でもエビフライ…。」


「もういいって。」


恥ずかしそうにそう答えるケンジが、裕美は心のそこからかわいらしく思え、抱きしめたい衝動に駆られた。



「うん。」


裕美はうれしそうにそう言うと、いそいそとケンジの後ろに続いた。
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