坂道
第十六章 えいえん
坂道にて
夜の坂道で待つケンジは、左手の腕時計を見た。
何度見たか分からないその文字盤は、すでに午後十一時三十分を回っている。
一体何時間、こうして待ち続けたであろう。
ケンジの心に、焦りに似た感情が芽生えた。
その時であった。
「ケンジくん!」
裕美のはじけるような声に、ケンジは慌てて振り向いた。
ケンジは駆け寄ってくる裕美を見ると、その服装に驚いた。
裕美は、うだるような夏の夜だというのに、高校の冬、ケンジの傍らでいつも着ていた、あのダッフルコートを着ていたのだ。
汗だくになった裕美は、息を切らしながら、ケンジの前に立った。
「私、最期の瞬間は、このコートの姿で迎えたかったんだ。」
「夏だというのに?」
ケンジがそう尋ねると、裕美は小さく頷いた。
「このコートは、特別なの。」
裕美はそう言うと、コートの襟元を立てて、いとおしそうに顔をうずめた。
「お父さんが就職して、その初任給でお母さんに買ってあげたのが、このコートなの。」
そう言うと、裕美は少し照れたように笑った。
「それに、このコートには、ケンジくんとの思い出も、一杯詰まっているから。三人の大好きな人の思いが、一杯こもったこのコート姿で、天に召されたいの。」
顔を赤らめた表情を見て、ケンジは穏やかな表情で力なく笑い返した。
「あれ…。」
ふと自分の服装に気がついて、戸惑うケンジを見ると、裕美は穏やかな表情で尋ねた。
何度見たか分からないその文字盤は、すでに午後十一時三十分を回っている。
一体何時間、こうして待ち続けたであろう。
ケンジの心に、焦りに似た感情が芽生えた。
その時であった。
「ケンジくん!」
裕美のはじけるような声に、ケンジは慌てて振り向いた。
ケンジは駆け寄ってくる裕美を見ると、その服装に驚いた。
裕美は、うだるような夏の夜だというのに、高校の冬、ケンジの傍らでいつも着ていた、あのダッフルコートを着ていたのだ。
汗だくになった裕美は、息を切らしながら、ケンジの前に立った。
「私、最期の瞬間は、このコートの姿で迎えたかったんだ。」
「夏だというのに?」
ケンジがそう尋ねると、裕美は小さく頷いた。
「このコートは、特別なの。」
裕美はそう言うと、コートの襟元を立てて、いとおしそうに顔をうずめた。
「お父さんが就職して、その初任給でお母さんに買ってあげたのが、このコートなの。」
そう言うと、裕美は少し照れたように笑った。
「それに、このコートには、ケンジくんとの思い出も、一杯詰まっているから。三人の大好きな人の思いが、一杯こもったこのコート姿で、天に召されたいの。」
顔を赤らめた表情を見て、ケンジは穏やかな表情で力なく笑い返した。
「あれ…。」
ふと自分の服装に気がついて、戸惑うケンジを見ると、裕美は穏やかな表情で尋ねた。