坂道
ケンジの胸の中に抱かれる裕美は、幸せだった。



卒業してから目を閉じると、そこにはいつもケンジがいた。


キラキラ輝く目でじっと前を見ている、大好きなケンジがいた。




その隣でその横顔を見ている、自分がいた。


穏やかな笑顔の、自分がいた。




仕事から帰って疲れきった孤独な夜、夢の中で笑顔で見つめるケンジに会えた。


柔らかい温もりに抱かれて眠る、自分がいた。




本当に大好きだった。


心の底から大好きだった。





だからこそ、お別れを言わなきゃ。
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