坂道
仲間たちは、裕美との最期の別れについて、何一つ問わなかった。


ただひたすらに、東京へ帰るケンジに向かって、ねぎらいの言葉をかけるだけであった。



ケンジは、そんな仲間たちの気遣いがうれしかった。



そんな五人の横では、一人、また一人と搭乗口に消えていく。


ケンジは腕時計を見ると、飛行機の出発時刻が迫っていることに気がついた。



「もう行かなくちゃ。」


ケンジはそう言うと、足元においていたスポーツバックを手にとって、行列の出来ている手荷物検査口へと向かった。



そして、検査の台にスポーツバックを置き、四人に向かって軽く手を振ると、きびすを返してゲートの向こうに消えていった。



その後姿を、奈央はじっと見つめていた。




そして、しばらくして沈む友たちのほうに向き直ると、にっこりと笑って言った。




「さあ、送迎デッキに行って、みんなでケンジくんを送ってあげよう。」
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