坂道
ケンジは、飛行機のやや前のほうの窓際の席に座ると、夏の日が差す窓の外をぼんやりと眺めた。


そこから見える故郷の風景は、東京へと旅立ったあの二年前と何一つ変わっていない。



あれは現実だったのであろうか。



それほどまでにあの三日間に、ケンジたちに起こったことは、あまりに現実離れしていた。


たとえ、六人に起こったことを、他人に言っても到底信じてはもらえないであろう。



しかし、裕美があの時、本当に実際に存在していたかどうかは、ケンジにとってはもうどちらどもいいことに思えた。



ケンジは、スポーツバックのファスナーを開けると、裕美の自分への一途な思い、仲間たちの裕美への想い、そして本当の自分の想いが詰まった一冊のノートを取り出した。


そして座席の前にあるテーブルを引き出し、シャープペンシルを手にとった。
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