坂道
やがて香澄はひとしきり笑うと、気がついたようにぽつりと言った。


「でも、裕美、遅いね。」



ふと土門が体育館のステージ横にかけられた時計を見ると、式典の開始までは五分を切っている。



「なあに、明るい顔でおはよう、って言ってくるさ。なあケンジ。」


そう言って、尾上はケンジの背中を小突いた。



しかし、ケンジの顔は浮かないままであった。



そんなケンジの様子に、土門はただならぬ気配を感じていた。
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