坂道
そんな将来への希望に溢れた人並みの中で、ケンジの表情だけが、ただ一人暗く沈んでいた。




ケンジはアーチを通り過ぎ体育館を出ると、暖かい太陽が降り注ぐ玄関前に出た。


そしてその日差しを避けるように手をかざすと、ゆっくりとあたりを見渡した。



しかし、やはり裕美の姿はどこにもなかった。



玄関前には、白いバスが止まっていた。


ケンジたちの高校は丘の上にあるため、市営バスが昇降口の前のロータリーまでやってくるのだ。



式典を終えた卒業生たちは、将来の夢を語り合いながら、そのバスに次々に乗り込んでいく。


その力強い足取りの列の最後には、奈央、尾上、香澄、土門、そしてケンジの姿があった。



高校生活は全て終わった。



せめて最後の最後は会いたかった。


その大好きな声を聞きたかった。


そのまっすぐな瞳を見つめたかった。



ケンジは、未練が残るように後ろを振り返る。



もうすでに、昇降口の向こうに見える体育館の中には、誰もいなかった。








いないはずであった。
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