坂道
その時、ケンジの前に乗り込んだ土門が、突然前からケンジの胸を強く押した。



予想外の親友の行動に、ケンジは思わずよろけてタラップから転げ落ち、アスファルトにしりもちをついた。


「運転手さーん。出発!」


運転席の横に立った尾上が運転手に向かってそう号令をかけると、バスの自動扉はゆっくりと閉まった。


それと同時に、一番前の座席の窓がひとつ開くと、香澄が顔を出した。


「全く、しっかりしなさいよ。さっき電話で私が散々寂しいよー、とかごねて来させたんだから。」



香澄がそう言う後ろでは、ニコニコした奈央が、後ろで証書の筒を振っている。


「ケンジ君しっかりね!」



土門と尾上のにやにやした顔が、タラップの向こうに見えた時、バスのエンジンがかかった。
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