坂道
ケンジは起き上がって学生ズボンのお尻を軽く払うと、体育館へと向かってゆっくりと駆け始めた。



親友たちの気持ちは無駄にはしたくない。



裕美は、そんな親友たちの様子を見ながら、体育館の入り口の前で待っていた。


「ケンジくん。卒業、そして合格おめでとう。」


「俺が合格していたの、知っていたのか。」



そんなケンジの声に、裕美は小さく笑った。


「私がケンジくんの合格を、知らないわけないでしょ。」


そう微笑む裕美を、思わずケンジは抱きしめた。



そんな二人を体育館の奥で見ていた教頭は、小さくひゅうと発すると、邪魔者は退散とばかりに薄くなった頭を撫でながら、そそくさと引き上げていった。
< 54 / 209 >

この作品をシェア

pagetop