坂道
「三年間本当にありがとう。」


ケンジのほうに向き直って、桜舞う中そう綻ぶように言う裕美が、ケンジは限りなくいとおしく思えた。



「裕美。やっぱり俺は、一緒にいたい。」


ケンジはぽつりと言った。



裕美はそのケンジの言葉を驚いたように聞いていたが、やがてその小さな口元が緩んだ。


「じゃあ、ケンジくん。私を東京に連れて行ってくれる?」


「それは…。」


ケンジは口ごもった。



そのようなことが出来るわけがない、ケンジは少なくてもその時はそう思った。
< 60 / 209 >

この作品をシェア

pagetop