坂道
ケンジは耐え切れずに、裕美に背を向けた。


そしてお別れの言葉を言うことも出来ないまま、新緑の香りとさくらの花びらに包まれた門の前に裕美を残しその場を去った。



裕美は徐々に小さくなっていくケンジの後姿を、笑顔で見送った。


見送りながら、走ってその背中に抱きつきたい衝動に裕美は何度も何度も駆られたが、歯を食いしばって耐えた。
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