坂道
東京に旅立とうとしている、あの人を苦しめたくはない。


だから精一杯の強がりを言って、あの時別れを告げたのだ。


ここであの人の胸に飛びついたら、全てが無駄になる。



やがてケンジの姿は、遠く消えてしまった。



それを確認すると、裕美は叫んだ。


「頑張れえ!大好きな…、この地球上で一番大好きなケンジくん!。」



裕美はありったけの声を吐き出し終えると、体からを力が抜けたように、その場にへたりこんだ。


両目からは、それまで堪えていた大粒の涙がこぼれた。



この時裕美は、初めて気がついた。


自分は、取り返しのつかないことをしてしまったということに。
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