坂道
これでよかったんだ。

ケンジくんにとって、重荷にならないことが、私にしてあげられる、唯一のことだったんだ。

私が東京についていくことなど不可能なことなんだ。

何度も何度も、裕美は自分にそう言い聞かせるが、次々に溢れる涙は止まらない。

止まるどころか、その量は増すばかりである。


裕美は嗚咽を繰り返し、両手で顔を覆うと、人目もはばからず泣き続けた。


そんな裕美を置いたまま、ケンジは別れてしまった。


さよならの一言を言わないまま。
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