坂道
裕美の実家は、小さな八百屋を営んでいた。



しかし裕美が小さい頃に裕美の父は他界しており、母親一人では店自体が成り立たなかった。


だから裕美は毎朝、母の品出しの手伝いなどをこなしていた。



ケンジは朝の練習に行く途中、文句も言わずいつも笑顔で手伝っていたその姿を見たとき、彼女のことがさらに好きになった。


その表情は、大変な仕事を課す母親に対する不満など微塵も感じさせず、町行く人々へも明るく挨拶をするその姿は、朝もやに霞む街を一気に華やかにさせていたものだ。



さらに奈央が言うには、卒業してからも裕美はデパートの販売員をしながら、朝の仕入れや野菜を並べるのを手伝っていたらしい。



その日も裕美は早朝、店に出た。


そして品だし終わって家に帰る途中、夜を抜けて走ってきた暴走トラックに突っ込まれたのとのことであった。


その勢いは、ブロック塀を突き破るほどすさまじいものであったという。



事故現場で息絶え絶えで横たわる裕美は、通行人の通報でやってきた救急車に担架で乗せられると、すぐに病院に運ばれた。


しかし医師団の必死の治療もむなしく、その後一時間後に息を引き取ってしまった。

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