坂道
日記はそこで終わっていた。



ケンジは情けなかった。


こんな裕美の思いを知っていた親友たちは、居酒屋から逃げるように帰っていく自分をどう思ったであろう。



情けなかった。



ケンジは日記に書かれた裕美の気持ちに、応えたかった。


しかし彼女がなくなった今、それはかなわなかった。



ケンジは机の傍らに置かれた鉛筆をとった。


そして、次のように日記の最後に書き加えた。




8月9日 天気 晴れ


裕美へ。僕も会いたかった。




今のケンジには、ただそう書くことしか出来なかった。
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