坂道
完全に陽が落ちてしまった公園で待つ裕美は、白い息をその小さな両の掌に吐きかけた。


そして少し温まった手と手をすり合わせると、街灯の下の木製ベンチに腰を下ろし、身にまとった薄い茶色のダッフルコートの襟をぐっと閉めた。



裕美は公園の入口の門に目をやった。



その向こうには、裕美の通う高校のある丘へと伸びていく坂道が見える。


今晩、こうやって坂道を見つめるのは、いったい何度目であろう。



「ケンジくん、来ないかな…。」



高校1年の裕美は不安そうにそうつぶやくと、公園の中心にそびえるポールの上に備え付けられた時計を見上げた。
< 98 / 209 >

この作品をシェア

pagetop