坂道
裕美は半年前に高校に入学してから、ずっとクラスメイトのケンジのことが気になっていた。



夏、野球部のほかの一年生に混じって、先輩たちのバッティング練習の玉拾いを一生懸命している姿を、学校帰りの裕美は金網越しにいつも見ていた。


練習が終わって、校舎へと続く坂道の横の土手で、チームメイトと楽しそうに話をしている姿を、いつも眩しく見つめていた。



しかし、裕美はその秘めた想いをずっと言えなかった。



内気で、人と話すことが苦手な裕美は、輝いているケンジに、その気持ちを伝えることなど出来なかった。


だから、ただ遠くで一人、臆病そうに学生カバンを抱えながら、その姿を見つめることしか出来なかった。
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