最低男に恋をして。



「…よし、いいぞ。」

目から離した手が、
服の裾を掴む私の手を優しく包んだ。


その、優しい体温が
心を解きほぐしていく。



「…お祭のとき。」

大きな深呼吸をひとつして、
彼の手を握り返した。


「見たの。
ゆかりさんと居るところ」

「…ゆかりと居るところ?」

…ゆかりって呼び方に
ズキンと、胸が痛んだ。


「うん。
綺麗な人、だったから…」

「あぁ、確かに。」

確かに…?
綺麗な人に対しての
確かに…?


「…バカ」

手を離そうとしても、
いっこうに離れない。

むしろ、力は強まった。



< 208 / 269 >

この作品をシェア

pagetop