多重人格少女と心臓病の少年
「着いたわよ」
車が止まる。
ドアを開けると、気持ちいい風が僕の体を通り抜けた。
「気持ちのいいところでしょう?」
「はい、とっても」
もっと古ぼけた別荘かと想像していた僕は、あまりの綺麗さに驚いた。
庭は広く、薔薇が咲いていて、薔薇庭園といっても過言ではない。
別荘は白で統一され、建てたばかりみたいに新しい。
「翼さんが療養に来るということで、宰さんにお掃除を頼んでおいたのよ」
「宰…?」
「おくさま〜っ!」
パタパタと何か白い物が走ってきた。
近くにきて、ようやくメイド服を来た女の子だということがわかった。
「わぁー!この方が翼様ですか?すごい綺麗な方!想像してたのと違ーう!想像より3倍…いや、5倍かっこいい!」
その子は、目をきらきら輝かせながら早口で喋った。
「え、えっと…」
「声もかっこいい!」
…………………。
あまりの勢いに、僕は黙り込んでしまった。
「つ、宰さん、落ち着いて。自己紹介が先でしょう?」
「あ、忘れてました!あまりの綺麗さに驚いて…私、瑞希 宰っていいます!これから私が翼様の身の回りのお世話をさせていただきます!宜しくお願いします!」
勢いよく頭を下げる。
「あ、葛城 翼です…こちらこそ宜しくお願いします」
つられて僕も深々と頭を下げた。