君が笑ってくれるなら
「悪い。帰る直前に担任に用事頼まれて、機嫌悪かったんだ」

とっさに出たのは、嘘のような本当の話。

「なんだ、そんなことか。凪のところの担任は、暇人を見つけるのが上手いなぁ」
 
そういって笑う夕に、俺は暇人じゃねーよ、と返す。
ふと笑っていた夕の声が止む。
 
「なぁ、凪?」
「ん?」
「お前に……いや、何でもない。おやすみ」
「は?何だよ?」
 
途中まで言いかけた夕の話の続きが気になり、話しかけてみたが、何も返ってこなかった。
次第に寝息が聞こえてきた。

自分も寝ようとして、眼を閉じてみた。
その時、何故か――彼女の顔が浮かんだ。


その時初めて恋をしたことに気付いたのだった。


――初恋は叶わないものだという。


それは本当のことなのかもしれない。

俺の初恋の相手は、双子の兄の恋人。




――叶うはずがなかった。


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