君が笑ってくれるなら
「……夕」
にっこりと微笑む彼女が、最初に呼んだ名前は、俺ではなかった。
彼女は、俺たちを一度も間違えたことがなかったのに。
彼女は、俺を「夕」と呼んだ。
「良かった……。生きてたのね……。良かった……怪我してない?……夕?どうしたの?」
俺の頬に触れながら、話しかける彼女。
あの頃と変わらない、ガラスのような色素の薄い瞳で、何も言わない俺を心配そうな顔で見つめる。
泣きそうな顔にも見えた。
その顔を見た時。
俺は、決意した。
「……稜……。聞いて……俺は――」
彼女が笑ってくれるなら。
俺は自分を犠牲にするから。
だから、君は笑っていて――…