【短編】失った温もり
……最低だ。


口に出すか、出さないか分からないくらいの呟きだった。
片手で両目を覆い、うなだれる。


自分から手を離したのに、勝手に落ち込んで酒に飲まれて……。
その上、選んだはずの娘との約束まで破ってしまった。


最低だ。
父親としても、男としても。


だから逃げられるんだ。
妻にも、そして……彼女にも。


分かっていたはずだろ?
自分から手を離したなんて嘘ぶいても、真実は彼女の中に他の男が居た。


ただそれだけ。

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